引用文

寅さんの謎―男はつらいよ

寅さんの謎―男はつらいよ

35頁 朝日印刷の印刷工たちに対して、「さくらは大学出のサラリーマンと結婚させるんだ。てめえらみてえな菜っ葉服の職工には高嶺の花だ、わかったか」などと言っている。
54頁 第九作「柴又慕情」では、寅さんが柴又へ帰ると、博が家を建てたいと言っている。寅さんは「どうせ割り箸みたいな柱に、せんべいみたいなカベの家だろ。やめろやめろ」とけなして、博を怒らせてしまった。
56頁 いずれにしても、円高不況といわれた時代に、安月給の朝日印刷に勤めている博がマイホームを持ったというのは、「たいしたもんだよ、カエルのションベン」ではある。バブルの時代まで延ばしていたら、一生家など持てなかったに違いない。
58頁 朝日印刷クラスの会社なら世間並を下回る安月給
61頁 いうまでもなく博は朝日印刷ではなくてはならない存在だ。博がここを去ろうとする度に社長は大パニックに陥ってしまう。第六作「純情篇」でも、「主任技師」の博の工場退社騒動があったが、これをなだめるためにタコ社長は寅さんにとめてくれるように頼んだりしている。
72頁 朝日印刷の経営は実に厳しいらしい。とらやの商売と違って現金収入がないから資金繰りをいつも考えておかねばならず、タコ社長はそのことで頭がいっぱいだ。汗水たらして働いても、印刷機のローンに追われ、ローンが終わった頃には技術革新のためにまた新しい機械を導入する必要に迫られる。もちろん巡業員へ支払う人件費にも悩まされる。
72頁 寅さんがとらやへ帰ってくる度にタコ社長と一悶着が起きる。それを印刷所二階の寮から見ている工員たちは、まだ全員が黒い肘カバーをしていて、仕事を続行中と見られる。寅さんが、「夜中までガタガタ機械を回しやがってお天道様が沈んだら早めに寝てもらいてえな、貧しいねー、君等は――」などと言っていることから、かなり残業をしなくては注文をこなせないらしい。
73頁 仕事が多すぎるためというより、人手不足と老朽化する機械をだましだまし使わなければならないためだ。それでも、工員たちが頑張るのは、常に働く人たちの代表として、率先垂範する博の統率力の賜物であろう。
74頁 この物語(第三二作「口笛を吹く寅次郎」)の最後では、博が亡父の遺産を朝日印刷に投資して、オフセット機械が導入された。喜んだタコ社長は、満男にパソコンをプレゼントしていた。どうやらこのころから、朝日印刷の経営は改善されていったようだ。
75頁 零細な朝日印刷は日本経済の浮き沈みをよく反映している。タコ社長の口からボヤキがなくなることははたしてあるのだろうか。
101頁 そんななか〔寅さんの啖呵売〕でも、寅さんがとくにこだわっているのは、本屋雑誌の販売ではないのかと思われる。
101頁 売り(バイ)のシーンでたびたび出てくる「易断」も、手相、人相をみながら、つまるところは暦の本を売るわけなのでやはり出版関係と言っていいだろう。本を売るときには「東京、神田は六法堂という有名な書店が、たった三〇万円の税金が払えずに投げ出した品物だ……」とタンカをきっている。