引用文20080401

2頁 人間はその有する芸能ゆえに他のすべての動物のはるか上に位する。人間以外の動物は、ほとんど学んだり、考えたり、記憶したりする術をしらない。
 人間はこの世に生をうけるや、まず狩猟にしたがい、火の利用を知り、道具をつくり、これを用い、ついで織物を織り、野獣を飼いならし、田畑をたがやし、作った物を交換し、雨中万物を探検、研究することを考えだした。しかし、人間の最も偉大な芸能のひとつは言語の使用で、それが因となり、文字を生み、さらに今日人間生活に最も重要な役割を果たしつつある「印刷術」を生んだ。
 はじめ、人間は「話すこと」を知った。それから言葉を文字に表わす方法を考えた。人間がどうして言語を話すようになったかは、なにも分かっていない。ただ、西国の聖典によれば「全治(世界)は同じ発音、同じ言葉であった」(創世記第11章1節)。それが多くの言葉に分かれたのは、人間がバベルの塔を築き、その頂点を天に届かせようとしてからだという。その真偽はともかく、我々は昔の古いいろいろなものをとおして、いくつかの民族が、どうして文字を書くようになったか、おぼろげながら推測できる。人間が自分の意志を伝え、記録を残すために最初に用いた方法は、岩や石や獣骨や貝や木の幹や板など、天然のなめらかな物の表面に、絵を彫ったり描いたりすることだった。アルタミラやドルドーニュなど、スペイン、フランスのある地方から、先史時代の洞窟壁画が発見された。これらのものは絵の祖先であるばかりでなく、文字の起源であり、また書物の源流であるともいえよう。